JCDデザインアワード2016審査員選評
金賞受賞作品
[METEOR CINEMA]
/One Plus Partnership
アジアという21世紀の地政学がデザインシーンを動かしている。 いち早く「デザイン都市」を名乗り出たソウル(2010年)、台北(2016年)など、デザインの国家戦略といっていいような場面が噴出する。 JCDが企画したアジアのデザイナーの交流イベント、2010年から2016年にかけて6回実施したEast Gatheringで出会うデザイナーたちの姿にも驚かされる。大陸中国とのネットワークにより、香港は600人が働くインテリアデザイン事務所を出現させていた。 2003年に始まったJCDデザインアワードの海外公募は、日本の空間デザインをこうした世界のデザインシーンで共有するための布石であった。韓国、香港、台湾、時にはイタリア、ニューヨーク、オーストラリアなどから最新のデザインが応募された。2016年は応募総数528点のうち、海外からの応募が107点と過去最高となった。
その中に群を抜いたデザイナーがいる。香港在住のAjax LawとVirginia Lungの二人が主催するデザイン事務所One Plus Partnership である。最近の5年間に彼らが世界中で応募する(JCDデザインアワードだけでなく世界中の空間デザインアワードで受賞)中国各地の映画館の空間は、中国圏のステレオタイプデザインでもなく、シンプルでソフィスティケーテッドなインターナショナルでもない特異なものだった。際立ったフォルマリズム、強引なプライマリーストラクチャー、精巧でフェティッシュですらある金属質、つまり最近の日本が忘失した「がむしゃらな強度」を放出するものだった。 こうした強度をどう受け止め判断すればいいのか。今の日本に対峙するクリティカルなデザインとして、それから海外公募の刺激的なメルクマールとして、私は2012年のJCDデザインアワードで銀賞を取りそこなったOne Plus Partnershipのデザインを審査員賞に選んだ。 フォルムが横溢する彼らのデザインは、今年の金賞受賞作「METEOR CINEMA」でも健在だ。文句あるか、と言わんばかりの強度。ヨーロッパ、アメリカのド派手なデザインアワード授賞式でこの作品を掲げる二人のツーショット、今年もFacebookで大量に観ることになるだろう。
飯島直樹
年鑑日本の空間デザイン2017 / 六耀社